人的資本経営と健康経営の違いとは?統合のメリットと成功事例を解説
人的資本経営と健康経営の違いや関係性を分かりやすく解説します。両者を連動させることで生まれるエンゲージメント向上や企業価値向上などのメリット、旭化成や花王の成功事例、具体的な推進ステップまで網羅。人事担当者が経営層に提案するためのヒントが満載です。
経営陣から人的資本経営と健康経営を連動させるよう指示されたが、具体的な違いや結びつけ方が整理できずお悩みではないでしょうか。
この記事では、両者の明確な違いから統合するメリット、成功企業の事例や実践ステップまでを網羅して解説します。読み終わると、社内で説得力のある戦略を立案するためのヒントが得られます。
1.人的資本経営と健康経営の違いと密接な関係性
人的資本経営と健康経営は、どちらも従業員に焦点を当てた経営手法ですが、その最終的な目的や対象とする範囲には明確な違いが存在します。それぞれの定義を正確に理解することで、自社が取り組むべき方向性がより鮮明になるでしょう。
ここでは、両者の基本的な概念と、それらがどのように影響し合うのかを詳しく解説していきます。
|
項目 |
人的資本経営 |
健康経営 |
|
捉え方 |
従業員を価値を生み出す「資本」とみなす |
従業員の健康管理を「経営的な投資」とみなす |
|
主な目的 |
中長期的な企業価値の向上と事業成長 |
従業員の心身の健康保持と労働生産性の向上 |
|
アプローチ範囲 |
スキル開発 多様性 配置 健康など広範 |
身体的・精神的な健康の維持と増進に特化 |
|
主な指標 |
エンゲージメント 離職率 育成投資額など |
休業率 ストレスチェック結果 健診受診率など |
人的資本経営の定義と目的
人的資本経営とは、従業員が持つ知識やスキルを単なる消費されるコストではなく、価値を生み出す源泉となる資本として捉える経営手法です。
この考え方の根底には、人に適切な投資を行うことで個人の能力が最大限に引き出され、結果として企業の中長期的な成長につながるという期待があります。例えば、リスキリングの推進や多様な人材の登用などを通じて、変化の激しい市場環境に対応できる強靭な組織を作ることが主な目的となります。
健康経営の定義と目的
一方で健康経営とは、従業員の健康管理を経営的な視点から考え、戦略的に実践する取り組みを指します。
心身の健康が損なわれると、出勤していても本来のパフォーマンスを発揮できない状態に陥りやすく、生産性の低下を招くと言われています。そのため、企業が主体となって生活習慣病の予防やメンタルヘルス対策に投資し、従業員がいきいきと働ける環境を整えることが健康経営の大きな目的です。
両者の違いは視点とアプローチの範囲にある
両者の最も大きな違いは、着目する視点とアプローチの広さにあります。
人的資本経営は、人材のスキルアップやキャリア形成、組織風土の改革など、人が価値を創造するためのあらゆる要素を包括的に扱う広い概念と言えます。
対して健康経営は、人が能力を発揮するための大前提となる心身の健康状態にフォーカスしています。このように、扱う領域の広さと焦点を当てるポイントが異なるという認識を持つことが重要です。
なぜ両者を連動させる必要があるのか
それぞれの領域が異なるにもかかわらず連動が求められる理由は、健康という土台がなければ、その他の人的資本への投資が十分に機能しないからです。
いくら高度な研修を用意しても、従業員が心身の不調を抱えていれば、新しいスキルを習得する意欲が湧きにくくなるでしょう。健康経営を推進して従業員の活力を高めることが、人的資本経営の多様な施策を成功させる基盤になると考えられます。
2.人的資本経営と健康経営を統合して推進するメリット
別々に管理されがちな二つの取り組みを統合して推進することで、企業には多方面にわたる相乗効果がもたらされます。従業員個人の変化が組織全体の活力に波及し、最終的には社外からの評価向上にもつながるという良い循環が生まれます。
ここでは、具体的な三つのメリットについて深く掘り下げていきます。
|
メリットの対象 |
統合によって得られる具体的な効果 |
|
従業員と組織 |
エンゲージメントの向上 生産性の改善 コミュニケーションの活性化 |
|
採用と定着 |
働きやすい環境への共感 離職率の低下 優秀な人材の獲得力強化 |
|
投資家と市場 |
企業価値の向上 ESG投資の基準クリア 社会的な信頼性の獲得 |
従業員エンゲージメントの向上と生産性の改善
心身の健康が守られているという安心感は、会社への信頼を深め、仕事に対する前向きな感情を生み出します。
健康経営の施策によって体調が整うと、集中力や判断力が増し、一人ひとりの業務効率が改善されるでしょう。さらに、人的資本経営の視点から個人の成長を支援する仕組みを提供することで、仕事へのやりがいが強まり、組織全体の生産性が高まる効果が期待できます。
優秀な人材の確保と定着率の向上
従業員を大切に扱い、健康と成長の両面から投資を行う姿勢は、採用市場における強力なアピール材料として機能します。
働きやすさと働きがいの両方が揃っている企業は、就職や転職を考える求職者にとって魅力的に映るでしょう。また、現在働いている従業員にとっても、長く働き続けたいと思える環境が整うため、貴重な人材の流出を防ぎ、組織にノウハウが蓄積されやすくなるという利点があります。
投資家からの評価獲得と企業価値の向上
近年、財務情報だけでなく非財務情報の開示が強く求められるようになっており、この傾向は今後さらに強まっていくと考えられます。
経済産業省の「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書」などでも、人材への投資が中長期的な企業価値向上につながることが示されています。健康経営と人的資本経営を連動させた一貫性のあるストーリーを投資家に提示することで、持続可能性の高い企業として高く評価されやすくなるでしょう。
3.人的資本経営と健康経営の統合に成功している企業事例
概念を理解した後は、実際に現場でどのように両者を連動させているのかを知ることが大きなヒントになります。日本を代表する企業の中には、健康管理を単なる福利厚生にとどめず、経営戦略の根幹に据えて成果を出しているケースが数多く存在します。ここでは、先進的な取り組みを行っている実在企業の事例を二つ紹介します。
|
企業名 |
主な取り組み内容 |
期待される成果と実績 |
|
旭化成株式会社 |
独自の健康経営宣言と睡眠改善 メンタルヘルス対策の推進 |
ワークエンゲージメントの向上、ホワイト500の連続取得 |
|
花王株式会社 |
健康経営戦略MAPの策定と、生活習慣の見える化施策 |
社員活力の最大化、プレゼンティーズムの低下傾向 |
旭化成株式会社の事例
旭化成株式会社は、大規模法人部門の「健康経営優良法人ホワイト500」に連続して認定されている代表的な企業です。同社は「人財がすべてである」という考え方に基づき、従業員の心身の健康と活躍できる環境整備を強力に推進しています。具体的な取り組みとして、休業率の改善に向けたメンタルヘルス不調や生活習慣病対策のほか、睡眠の質と量が業務パフォーマンスに影響するという仮説のもと、睡眠改善にも注力しています。
こうした健康基盤の強化が、結果として従業員のワークエンゲージメント向上という人的資本経営の成果に結びついています。
参考:「健康経営優良法人2026(大規模法人部門)ホワイト500」に認定 | 2025年度 | ニュース | 旭化成株式会社
花王株式会社の事例
花王は経営トップによる「花王グループ健康宣言」のもと、人財戦略部門と健康保険組合が連携して健康づくりを推進しています。
最大の特徴は、長年のヘルスケア研究や自社技術を社員の健康支援に活用している点です。具体的には、内臓脂肪をためにくい「スマート和食」の提供や、生活習慣の測定が行われています。データ分析に基づいて、社員が無理なく楽しく健康習慣を継続できる環境を整え、社員のヘルスリテラシー向上を図っています。
4.人的資本経営と健康経営を連動させるための実践ステップ
自社で二つの経営手法を統合して進めるためには、行き当たりばったりの施策ではなく、順序立てた計画が必要です。組織全体を巻き込み、実効性のある取り組みへと昇華させるための道筋を整理しておきましょう。
ここでは、着実に成果を上げるための四つの実践ステップを解説します。
|
ステップ |
実施する主な内容 |
中心となる担当部門 |
|
1. ビジョン策定 |
経営戦略と人材・健康への投資の関連性を言語化する |
経営層 経営企画部門 |
|
2. 推進体制の構築 |
部署の垣根を越えた協力体制と責任の所在を明確にする |
人事部門 産業保健スタッフ |
|
3. 目標設定と検証 |
データに基づきKPIを設定し、定期的に効果を測定する |
人事部門 データ分析担当 |
|
4. 情報開示と発信 |
取り組みのプロセスと結果を社内外のステークホルダーに伝える |
広報部門 IR部門 |
経営トップのコミットメントとビジョン策定
全社的プロジェクトと同様に、まずは経営層が強い意志を示すことが出発点となります。
なぜ自社において人的資本の価値向上と健康経営が求められているのか、それが将来の事業戦略とどう結びつくのかを明確な言葉で語ることが重要です。経営トップの口から直接ビジョンが語られることで、現場の従業員や中間管理職の意識が変わり、新しい施策を受け入れる土壌が形成されていくはずです。
人事部門と産業保健スタッフの連携体制構築
理念を掲げた後は、実務を取り仕切る強固な体制を作ることが求められます。
健康管理を担当する産業医や保健師と、人材育成や配置を担当する人事部門が別々に動いていては、相乗効果は生まれません。両者が定期的に情報交換を行い、健康データと人事データを統合的に分析できるような横断的なプロジェクトチームを立ち上げることが、施策を連動させるうえで重要なポイントとなります。
データに基づく目標設定と効果検証
具体的な施策を実行する際は、感覚に頼るのではなく客観的なデータを用いることが大事です。
健康診断の結果やストレスチェック、定期的なエンゲージメント調査のスコアなどを組み合わせ、現状の課題を洗い出します。そこから「休業率の低下」や「研修参加者の満足度向上」といった明確な指標を設定し、施策を実施した後には振り返りを行い、次の改善につなげるサイクルを回していくことが重要です。
ステークホルダーに向けた透明性のある情報開示
取り組みが軌道に乗ってきたら、そのプロセスや成果を社内外へ積極的に発信していく段階に入ります。
統合報告書や自社のウェブサイトを活用し、設定した目標に対して現在どの地点にいるのかを正直に開示します。上手くいった事例だけでなく、現在抱えている課題や今後の対策についても透明性を持って語ることで、投資家や求職者からの信頼獲得につながり、企業価値の向上にも寄与すると考えられます。
5.推進するにあたって注意すべきポイント
新しい概念を取り入れて組織を変革していく過程には、いくつか陥りやすい落とし穴が存在します。良かれと思って始めた取り組みが、かえって現場の反発を招いてしまうケースも少なくありません。
ここでは、推進担当者が事前に対策を練っておくべき重要な注意点についてお伝えします。
情報開示そのものを目的にしないこと
非財務情報の開示が制度化されたことで、報告書に載せるための見栄えの良い数字を作ることが自己目的化してしまう危険性があります。
他社の事例をそのまま模倣し、自社の実情に合わない指標を無理に追いかけても、組織の成長には結びつきにくいでしょう。開示はステークホルダーとの対話のための手段に過ぎず、本来の目的は従業員が生き生きと働き、持続的に価値を生み出せる環境を作ることだという原点を忘れないように注意が必要です。
従業員の納得感を得る丁寧なコミュニケーション
経営層や人事部門がどれほど素晴らしい施策を企画しても、現場の従業員に意図が伝わらなければ「また余計な仕事が増えた」と受け取られかねません。
サーベイの回答や健康イベントへの参加を強制するような進め方は、かえってストレスを生む原因になります。なぜこの取り組みを行うのか、従業員自身にどのような利点があるのかを時間をかけて説明し、現場の意見にも耳を傾けながら、共感の輪を広げていく姿勢が求められます。
まとめ
この記事の要点をまとめます。
|
健康を土台として従業員の可能性を最大限に引き出す戦略は、これからの時代を生き抜く企業にとって大きな武器となるはずです。
<最後に>
今後健康経営優良法人認定の取得を進めるのであれば、認定取得を強力にサポートする【ALWEL(オルウェル)】というサービスをリリースしております。 ご興味ありましたら是非ご確認ください。
