人的資本開示の義務化とは?対象企業から必須項目・今後の動向を解説
人的資本開示の義務化への対応にお悩みの方へ。義務化の対象企業や必須の開示項目、2026年以降の最新動向までわかりやすく解説します。内閣官房推奨の19項目の活用方法や準備手順も紹介しており、自社の企業価値を高めるための戦略的な開示方法がわかります。
人的資本開示の義務化への対応を求められ、自社が対象になるのか、具体的な開示項目は何なのかとお悩みの方に向けて解説します。この記事では、義務化の対象となる企業の条件と必須の開示項目、そして2026年以降の最新動向をわかりやすくお伝えします。読み終わると、自社でどの情報を集め、どのように開示の準備を進めればよいかが明確になります。
1.人的資本開示の義務化とは
グローバルな投資家がESG(環境・社会・ガバナンス)情報を重視するなか、競争力の源泉である「人材」に関する情報開示が国際的な標準になりつつあります。日本でもこの潮流を受けて法整備が進み、企業経営の透明性を高めるための新たなルールが設けられました。
ここでは、制度の全体像を把握するために、なぜ今この仕組みが求められているのかという大きな社会的背景と、今後の方向性を概観します。
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義務化の対象となる企業と適用時期
まずは、どのような企業が人的資本開示の義務化の対象になるのかを整理していきましょう。
制度の適用は2023年3月期決算以降から始まっており、すでに多くの企業が対応を進めている状況です。対象となるのは、金融商品取引法に基づいて有価証券報告書を発行している約4000社の大手企業となります。中心は上場企業ですが、有価証券報告書を提出している非上場企業も対象に含まれます。
対象企業は、人的資本を開示することで投資家や求職者に対し、自社の持続的な成長性をアピールしやすくなります。
また、金融庁が「企業内容等の開示に関する内閣府令」を改正したことで、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の記載が法的に義務付けられました。
参考:経済産業省「人的資本経営の現状・課題とトップランナーたちの取組」
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項目 |
詳細内容 |
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適用開始時期 |
2023年3月期決算以降 |
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対象企業 |
有価証券報告書を提出している約4000社 |
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根拠となる法令 |
企業内容等の開示に関する内閣府令 |
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開示の目的 |
人材投資を通じた企業価値と成長性の提示 |
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2026年以降の開示拡充の最新動向
2026年3月期以降は、人的資本の開示においてさらに踏み込んだ内容が求められる方向で制度整備が進んでいます。背景にあるのは、投資家の期待の変化です。制度開始から数年が経過し、単なる数値の報告ではなく、経営戦略と結びついたストーリーの提示が求められるようになりました。
具体的には、SSBJ基準の整備・適用が進むなか、サステナビリティ情報全般について、人材投資がもたらす機会とリスクを分析・開示することの重要性が高まっています。
内閣官房が公表している「人的資本可視化指針」も改訂され、投資家の期待に応えるための考え方がより明確に整理されました。単に制度に対応するだけでなく、人材を価値創出の源泉として位置づけ、合理的な説明をすることが、今後の開示を成功に近づけるポイントになると考えられます。
2.義務化で開示が求められる具体的な項目
制度への対応を進めるうえで、「具体的に何をどこまで記載すればよいのか」は多くの担当者が直面する疑問です。開示項目は、企業の姿勢を示す定性的な情報と、進捗を客観的に測る定量的なデータを組み合わせて報告する仕組みとなっています。
ここでは、法令によって提出企業に一律で課されるベースとなる報告事項と、該当する企業のみが対応すべき要件との切り分けについて解説します。
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全企業に共通する必須開示項目
人的資本開示の義務化に伴い、有価証券報告書を提出するすべての企業が開示しなければならない項目が存在します。これらは、サステナビリティに関する考え方や取り組みという大きな枠組みの中で報告が求められる情報です。
中心となるのは、人材育成方針と社内環境整備方針の二つになります。企業がどのように従業員のスキルを高め、働きやすい環境を構築していくのかという根本的な方針を示す必要があるでしょう。
方針に加えて、測定指標・目標・現状の進捗状況を併せて開示することも義務付けられています。具体的な数値を伴うことで、企業の取り組みの透明性が高まり、外部からの評価につながりやすくなるでしょう。
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開示の分野 |
必須となる具体的な項目 |
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人材育成 |
従業員の能力向上に向けた人材育成方針 |
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環境整備 |
働きやすさを向上させる社内環境整備方針 |
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指標と目標 |
上記方針を測定する指標と達成に向けた目標 |
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進捗状況 |
設定した目標に対する現在までの達成度合い |
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特定の条件を満たす企業への追加開示項目
全企業に共通する項目に加えて、特定の法律に基づく要件を満たす企業には、さらに追加で開示が義務付けられている項目が存在します。これらは、多様性の推進や労働環境の公平性を客観的な数値で測るための指標です。
具体的には、女性活躍推進法や育児・介護休業法の規定によって公表義務を負っている企業が対象となります。開示が求められる項目は、女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差の三つです。
これらの数値はダイバーシティ実現度を測る客観的なデータであり、投資家や労働市場からの関心も高いとされる項目です。正確に算出したうえで、背景や改善施策とセットで伝えることが大切です。
3.内閣官房が推奨する7分野19項目のガイドライン
法的な義務への対応が「守り」の開示だとすれば、ガイドラインを活用した任意開示は自社をアピールするための「攻め」の開示と言えます。投資家からの評価をさらに高めるためには、最低限のルールを満たすだけでなく、多角的な視点から人材投資の取り組みを言語化していく必要があります。
ここでは、国が標準的な枠組みとして示している実務的な指針の存在と、それを自社の魅力付けにどう活かしていくべきかを解説します。
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人的資本可視化指針の概要
必須の開示項目に加えて、企業が自社の魅力をより効果的に伝えるために活用できるガイドラインが用意されています。内閣官房が公表している「人的資本可視化指針」では、幅広い視点から人的資本を整理するための枠組みが提示されました。
この指針では、企業が任意で開示を検討すべき項目が7つの分野と19の項目に分類されています。人材育成やエンゲージメント、流動性、ダイバーシティなど、現代の経営において重視されるテーマが網羅されているのが特徴と言えるでしょう。
これらの項目は法的義務ではありませんが、投資家との対話を深めるための共通言語として広く認識されています。多くの先進的な企業が、この指針を参考にしながら独自の開示レポートを作成している状況です。
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推奨される分野 |
含まれる主な項目(19項目の一部) |
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人材育成 |
リーダーシップ 育成 スキルや経験 |
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エンゲージメント |
従業員エンゲージメントの測定結果 |
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流動性 |
採用の状況 人材の維持 後継者育成 |
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ダイバーシティ |
多様性の確保 非差別 育児休業の取得 |
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健康と安全 |
精神的および身体的な健康 職場の安全 |
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労働慣行 |
賃金の公正性 福利厚生 労働組合との関係 |
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コンプライアンスと倫理 |
倫理的行動基準や法令遵守の取り組み |
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自社戦略に合わせた項目の活用方法
このガイドラインを活用する際に気をつけたいのは、19項目すべてを無理に開示する必要はないという点です。企業ごとに事業内容や組織の課題は異なるため、自社の経営戦略と結びつく重要な項目を厳選するアプローチが求められます。
たとえば、新しい技術の開発に注力している企業であれば、人材育成やスキルの項目を手厚く説明することが効果的になるでしょう。一方で、グローバル展開を加速させる企業であれば、ダイバーシティや流動性の項目が投資家の関心を惹きつけやすいでしょう。
自社独自の強みや課題を踏まえ、どのような人材投資が将来の企業価値向上につながるのかという一貫したストーリーを構築することが重要になります。
4.人的資本開示の対応をスムーズに進める手順
開示する項目や方針が決まったとしても、それを実際の有価証券報告書という形に落とし込むまでには、多大な労力と時間がかかります。とくに初年度の対応や、開示内容のさらなる高度化を目指すフェーズでは、一部の担当者だけの力で乗り切ることは困難です。
ここでは、プロジェクトを成功に導くための基盤となる組織づくりの重要性と、情報を正確に集約して説得力のあるレポートに仕上げるまでの具体的なプロセスを解説します。
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開示に向けた社内体制の構築
人的資本の開示を成功に近づけるためには、複数の部門が協力して取り組む社内体制の構築が重要です。人事部門だけが単独で進めてしまうと、経営戦略との連動性が薄れ、外部のステークホルダーに響かない内容になってしまうおそれがあるためです。
中心となるのは、実際にデータを保有する人事部門と、投資家との対話を担うIR部門、そして全体の戦略を描く経営企画部門の三者になります。早い段階から目的を共有し、どの情報をどのように見せるかという方針をすり合わせることが大切と言えるでしょう。
定期的なミーティングを設定し、最新の法改正や他社の動向を共有しながら進めることで、手戻りを防ぎ効率的に開示準備を進めやすくなります。
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担当部門 |
人的資本開示における主な役割 |
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人事部門 |
従業員データの収集 人事施策の実行と分析 |
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経営企画部門 |
経営戦略と人材戦略の連動性の担保とストーリー構築 |
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IR部門 |
投資家のニーズ把握 有価証券報告書への記載と外部発信 |
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データの収集と開示内容の策定
体制が整った後は、実際のデータ収集と開示内容の策定へと進みます。
最初に行うべきは、自社が現在どのようなデータを保有しており、何が不足しているのかを把握する現状分析のステップです。不足しているデータがある場合は、新たな人事システムの導入や従業員アンケートの実施など、計測できる環境を整える必要があります。とくにエンゲージメントなどの定性的な項目は、定期的に測定する仕組みを作ることが長期的な運用において重要になります。
データが揃ったら、自社の経営戦略に沿った指標を選定し、到達すべき目標数値を設定する流れとなります。過去の推移や今後の改善策とあわせて言語化することで、説得力のある開示内容が完成するでしょう。
5.独自の指標を開示して企業価値を高めた事例
制度や枠組みの理解を深めた後は、実際に市場から高い評価を得ている企業の事例から「生きたノウハウ」を学ぶことが有効です。先行企業は、単に決められたフォーマットを埋めるのではなく、自社の理念や事業特性に根ざした独自の工夫を凝らすことで、ステークホルダーとの信頼関係を構築しています。
ここでは、数字の羅列にとどまらず、自社らしさを効果的にアピールして企業価値の向上に成功した具体的なモデルケースを紹介します。
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京王電鉄と大和ハウス工業の開示事例
ここでは、具体的な事例を二つ紹介します。
京王電鉄株式会社は、従業員のエンゲージメント向上に強いこだわりを持つ企業として知られています。2023年3月期の人的資本開示において、必須項目だけでなく「トータルエンゲージメントスコア」や「職場の心理的安全性スコア」といった独自の指標を公開しました。失敗を恐れず、変革や挑戦の気概を持ち、自律的に業務を遂行する風土づくりを数字で示すことで、投資家との対話の深化につなげている事例です。
また、大和ハウス工業株式会社は「事業を通じて人を育てる」という社是を体現するため、「人財育成ポリシー」と「人財育成のエコシステム」を構築しました。人材投資の意義をステークホルダーに証明するため、施策の設計から運用までを一貫して開示しています。
まとめ
この記事の要点をまとめます。
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人的資本の開示を自社の魅力を労働市場や投資家へ効果的に伝える機会として前向きに取り組んでいきましょう。
<最後に>
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