健康診断の費用はどこまで会社負担?対象範囲や福利厚生費にする要件
健康診断の費用は、法定の範囲において会社負担が義務付けられています。本記事では、再検査やパートの扱い、費用を福利厚生費とする要件に加え、健診後に取り組みたい健康支援も解説します。正しいルールを把握し、社内の健康管理体制を整えましょう。
企業の健康診断にかかる費用は、労働安全衛生法で義務付けられた一般健康診断の範囲において会社負担が原則です。本記事では、パート従業員や再検査の扱いに加え、費用を福利厚生費として非課税で計上する税務上の要件を整理します。
この記事の要約
- 労働安全衛生法で義務付けられた一般健康診断の費用は全額会社が負担する
- 正社員の4分の3以上の時間働くパート従業員も健康診断の実施と費用負担の対象となる
- 交通費や一般健康診断の受診中の賃金支払いに法的義務はないが、会社負担とすることが望ましい
- 福利厚生費として計上するには、全従業員を対象とし、常識的な範囲の金額に収める必要がある
- 自治体や協会けんぽの補助金、労災保険の二次健康診断等給付を活用して費用を抑える
1.健康診断の費用はどこまで会社負担になるのか
健康診断の費用負担は、法律で義務付けられた検査か、任意の検査かによって企業の対応が分かれます。検査の性質ごとの負担区分を整理します。
|
検査の種類 |
費用負担の原則 |
|
一般健康診断 |
法的義務があり全額会社負担 |
|
再検査・精密検査 |
法的義務はなく、就業規則などで企業ごとに判断する |
|
オプション検査・人間ドック |
個人の希望によるものは自己負担 |
-
法令で義務付けられた一般健康診断は全額を負担する
労働安全衛生法に基づき事業者に実施が義務付けられている一般健康診断の費用は、全額会社が負担します。事業者の責任において労働者の健康管理を行う必要があるためです。厚生労働省の通達でも、法定健康診断にかかる費用は事業者が負担すべきものと明示されています。会社が健康診断を実施しない場合、労働安全衛生法違反として罰則の対象となるケースもあります。
参考:労働安全衛生法 | e-Gov 法令検索(第66条、第120条)
参考:労働安全衛生法および同法施行令の施行について(◆昭和47年09月18日基発第602号)
-
再検査や精密検査の費用は企業の判断で取り決めを行う
一次健診で異常が見つかった場合の再検査や精密検査については、法律上の実施義務や費用負担の規定はありません。費用を会社が負担するか、従業員の自己負担とするかは、就業規則などの取り決めによって企業ごとに判断します。ただし、厚生労働省の指針では、再検査や精密検査が必要な労働者に対して事業者が受診を勧奨することが適当とされています。未受診を防ぐためにも、一定額までを会社が補助する制度を設ける企業もあります。
参考:健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針|厚生労働省
-
従業員が希望するオプション検査や人間ドックは自己負担とする
法定項目を超えて従業員が自発的に希望するがん検診や人間ドックの費用は、原則として従業員の自己負担です。法令上の実施義務がない任意の検査であるため、企業側に支払いの義務は生じません。企業が福利厚生の一環として人間ドックの費用を補助する場合は、全従業員を対象とするなどの公平な基準が必要です。
2.パートやアルバイトに対する健康診断費用の負担義務
非正規雇用の従業員であっても、一定の労働時間を満たす場合は健康診断の実施と費用負担の義務が生じます。労働時間に基づく基準を確認します。
|
労働時間の条件 |
健康診断の実施・費用負担 |
|
正社員の4分の3以上 |
実施義務あり(全額会社負担) |
|
正社員の2分の1以上4分の3未満 |
実施が望ましい |
-
週の労働時間が正社員の4分の3以上であれば全額負担する
1年以上の雇用が予定されており、1週間の所定労働時間が正社員の4分の3以上であるパートやアルバイト従業員には、正社員と同様に健康診断を実施する義務があります。この場合は法定対象者となり、費用は全額会社負担です。シフト制で労働時間が変動する場合でも、雇用契約書に記載された所定労働時間をもとに判定します。対象となる従業員への実施を怠ると法令違反となるため、雇用形態にかかわらず労働時間の管理が必要です。
-
労働時間が半分以上4分の3未満の従業員も実施することが望ましい
週の労働時間が正社員の半分以上、4分の3未満の従業員については、法的義務はないものの健康診断を実施することが厚生労働省によって推奨されています。実施した場合の費用負担については法令上の定めがないため、企業ごとに判断します。近年は非正規雇用者の待遇改善が求められており、こうした従業員にも全額会社負担で健診を提供する企業もあります。自社の予算や健康経営の方針を踏まえ、対象範囲をどこまで広げるかを検討しましょう。
3.受診に伴う交通費や賃金も会社が支払うべきか
健康診断の費用本体だけでなく、受診にかかる交通費や時間中の賃金の取り扱いも経理・労務上の論点となります。それぞれの対応基準を整理します。
|
項目 |
会社負担の法的義務 |
推奨される対応 |
|
医療機関までの交通費 |
明文規定はない |
会社指定の場所へ行くため会社負担 |
|
受診中の賃金(一般健診) |
支払い義務はない |
円滑な受診のために支払うことが望ましい |
|
受診中の賃金(特殊健診) |
支払い義務あり(労働時間扱い) |
通常の賃金を支払う |
-
自宅や会社から医療機関までの交通費は会社負担とすることが推奨される
従業員が医療機関へ移動する際の交通費について、法律上の支払い義務は明記されていません。一方で、一般健康診断は事業者に実施義務があり、その費用は事業者が負担すべきものとされています。そのため、交通費は会社負担とすることが実務上は推奨されています。移動距離にかかわらず従業員に交通費を負担させると、不満が生じ受診率の低下を招く原因になりかねません。交通費の精算ルールをあらかじめ就業規則に定めておくことが重要です。
参考:労働安全衛生法および同法施行令の施行について(◆昭和47年09月18日基発第602号)
-
受診にかかった時間分の賃金は労使間の協議によって決定する
一般健康診断の受診時間は、法律上当然に労働時間とされるわけではなく、その間の賃金は労使間の協議で取り扱いを決めます。ただし厚生労働省は、労働者の健康確保は事業の円滑な運営に不可欠であるとし、受診中の賃金も支払うことが望ましいとしています。一方で、有害業務に携わる労働者を対象とした特殊健康診断の受診時間は、厚生労働省の通達で労働時間と解されています。特殊健康診断の場合は賃金の支払い義務が発生するため、一般健康診断とは扱いを分ける必要があります。
4.費用を「福利厚生費」として経費計上するための要件
会社が負担した健康診断費用を経費として処理する場合、給与課税を避けて「福利厚生費」とするための税務上の要件が存在します。実務上確認したい3つの基準を整理します。
|
税務上の要件 |
判断基準と注意点 |
|
対象者の公平性 |
全従業員(一定年齢以上など)を対象に一律で実施する |
|
内容の妥当性 |
健康管理を目的とした一般的な健康診断とする |
|
金額の妥当性 |
常識的な範囲の金額(数万円程度)に収める |
-
対象となる全従業員が公平に受診できる体制を整える
健康診断の費用を福利厚生費とするには、全従業員を対象として公平に受診できる制度であることが求められます。役員や特定の幹部だけを対象とした高額な人間ドック費用を会社が負担した場合、その費用は対象者への「給与」とみなされ所得税が課されます。「35歳以上の全従業員を対象に人間ドックを補助する」のように、年齢などの合理的な基準を一律に設けることは認められます。一部の従業員だけが優遇されるような恣意的な運用は避ける必要があります。
-
健康管理を目的とした一般的な内容の健康診断とする
利厚生費として処理するには、従業員の健康管理を目的とした、一般的に実施されている程度の健康診断であることが求められます。国税庁の質疑応答事例でも、一般的に実施されている人間ドック程度の健康診断であれば、給与として課税する必要はないとされています。健康管理との関係が薄い検査やサービスを含める場合は、福利厚生費として扱えるか事前に確認してお福くと安心です。実務上は、会社が医療機関と法人契約を結び、請求書払いで一括精算すると、支払いの記録を残しやすくなります。
-
極端に高額なプランを避け常識的な範囲の金額に収める
福利厚生費として認められる健診費用は、社会通念上「常識的な範囲内の金額」に収まっている必要があります。一般的な健康診断であれば1万円前後、通常の人間ドックであれば数万円程度であり、対象者の公平性などの要件を満たしていれば、福利厚生費として処理できます。数日間にわたる超高級な人間ドックや、旅行を兼ねた数十万円にのぼる検診ツアーなどを会社が負担した場合は、高額すぎるとして否認される可能性が高くなります。相場から大きく逸脱したプランの提供は控えるのが安全です。
5.企業が負担する健康診断費用を適切に抑える方法
健康診断にかかるコストは企業にとって重い負担ですが、外部の制度を活用することで費用負担を軽減できます。活用できる助成金や制度を整理します。
|
活用できる制度 |
対象者・条件 |
メリット |
|
協会けんぽ等の補助金 |
健保加入の一定年齢以上の被保険者 |
健診費用の大部分が補助される |
|
労災保険の二次健診給付 |
一次健診で特定項目の異常がある者 |
指定医療機関で無料で受診できる |
-
自治体や加入する健康保険組合の助成金制度を活用する
全国健康保険協会(協会けんぽ)や各健康保険組合では、加入する事業所に向けて健康診断の費用を補助する制度を提供しています。協会けんぽの場合、35歳から74歳と20歳・25歳・30歳の被保険者を対象とした生活習慣病予防健診があり、一般健康診断に相当する内容を安価な自己負担額で受診できます。自治体によっては、中小企業の法定健診費用を一部助成する独自の制度を設けている地域もあります。事業所の所在地や加入する保険組合の案内を毎年確認することが、費用削減につながります。
-
一定の条件を満たす場合は労災保険の二次健康診断等給付を利用する
定期健康診断の結果、血圧や血中脂質、血糖、腹囲などの特定の項目すべてで異常の所見が認められた従業員は、労災保険の二次健康診断等給付を利用できます。この制度を利用すると、労災病院や指定医療機関にて、脳血管・心臓疾患に関連する二次健康診断と特定保健指導を無料で受けることが可能です。企業が再検査の費用を独自に負担しなくても、国が提供する仕組みで労働者の重症化リスクの低減が期待できます。対象となる従業員には制度の利用を積極的に勧奨します。
6.健診後のフォローとして企業が取り組みたい健康支援
健康診断は実施して終わりではなく、結果を踏まえた事後措置と職場環境の改善が重要です。企業価値の向上にもつながる健康支援の取り組みを整理します。
|
支援の取り組み |
目的 |
期待できる効果 |
|
健診データの分析 |
自社特有の健康課題の把握 |
効果的な対策への投資判断ができる |
|
健康セミナーの実施 |
正しい知識の習得と行動変容 |
従業員による生活習慣の自発的な改善 |
|
法人向けフィットネス |
従業員の運動習慣の定着 |
生活習慣の改善やメンタルヘルス不調の予防 |
-
健診データを分析して自社特有の健康課題を明確にする
健康診断の結果を個人に通知するだけでなく、組織全体で集計・分析することで自社が抱える健康課題が浮き彫りになります。特定の部署でメタボリックシンドロームの該当者が多い、あるいは若手社員の睡眠不足傾向が強いといった傾向を把握できます。課題が明確になれば、食事指導のセミナー開催や労働時間の是正など、的を絞った施策を展開できます。データを根拠としたアプローチは、経営戦略として従業員の健康管理を推進する「健康経営(従業員の健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践する取り組み)」の第一歩となります。
-
健診結果に基づくセミナーで従業員の行動変容を促す
健診で課題が見つかっても、従業員が生活習慣を変えなければ数値の改善にはつながりにくいでしょう。結果の通知や保健指導に加えて、食事・運動・睡眠などをテーマにしたセミナーを開き、正しい知識を身に付けてもらうことが効果的です。全社員が参加しやすいよう、オンライン形式や就業時間内の開催など、働き方に合わせた方法を選びます。自社の健康課題に合わせた検査と結果の解説をセットで提供する外部サービスを使えば、担当者の負担を抑えながら従業員一人ひとりの気付きを促すことが期待できます。
-
法人向けフィットネスサービスを導入し運動習慣の定着を促す
健康診断で指摘を受けやすい肥満や生活習慣病の予防には、日常的な運動習慣が重要です。そこで、スポーツクラブの法人会員制度を福利厚生として導入する企業もあります。企業規模や予算に応じて、会社が年間契約を結ぶプランや、従業員が割引価格で利用できるプランを選べます。福利厚生費として処理するには、全従業員が利用できる制度とし、会社が施設と直接契約・支払いを行い、常識的な範囲の金額に収めることが目安です。運動機会の提供は、生活習慣の改善に加え、メンタルヘルス不調の予防や社員間の交流促進にもつながることが期待できます。
まとめ
健康診断の費用負担は、法定の一般健康診断については全額会社負担であり、一定の条件を満たすパート従業員も対象に含まれます。費用を福利厚生費として非課税で処理するには、全従業員を対象とし、常識的な範囲の金額に収めるといった税務上の要件を満たすことが重要です。
担当者は、対象者の管理から医療機関との契約、再検査のフォローまで、多岐にわたる実務を正確かつ期限内に進める必要があります。健康診断を単なる義務の消化で終わらせず、結果をもとにした組織的な健康増進策へ繋げることが、中長期的な労働生産性の向上には重要です。
野村不動産ライフ&スポーツでは、スポーツクラブ「メガロス」を活用した法人向けサービスで、企業の健康経営を支援しています。中小規模法人向けの年間契約プランや大規模法人向けの割引プランに加え、企業の健康課題に合わせた検査と結果解説を組み合わせたセミナー、オンラインセミナーなど、自社の課題や働き方に合わせた健康支援が可能です。健康診断の結果を従業員の健康づくりにつなげたいとお考えの際は、法人向けサービスの内容をご確認のうえ、お気軽にご相談ください。
▶野村不動産ライフ&スポーツの法人向け ソリューション|スポーツクラブ・スポーツジムの法人会員なら野村不動産ライフ&スポーツ
<最後に>
野村不動産ライフ&スポーツは、2024年2025年と連続でホワイト500を取得いたしました。また野村不動産グループ各社が健康経営優良法人認定取得に向けた施策実行をサポートしております。
今後健康経営優良法人認定の取得を進めるのであれば、認定取得を強力にサポートする【ALWEL(オルウェル)】というサービスをリリースしております。 ご興味ありましたら是非ご確認ください。



