心理的安全性とは?高めるメリットとリーダーができる実践方法を解説
心理的安全性とは何か、その定義から注目される背景、高めるための具体的な方法までをわかりやすく解説します。チームの生産性向上や離職率低下に悩む管理職・リーダーに向け、実践的なアクションや事例を紹介していますので、ぜひ組織作りの参考にしてください。
「チームの会議で誰も発言してくれない」「若手社員が定着せずにすぐ辞めてしまう」といった組織の悩みを抱えている人も多いのではないでしょうか。
この記事では、近年ビジネスシーンで注目を集めている「心理的安全性」について、基本的な定義や高めるメリットを解説します。読み終わると、自分のチームの心理的安全性を高めるために、明日からどのようなアクションを起こせばよいかが具体的にわかるようになります。職場のコミュニケーションに課題を感じている方は、ぜひ組織作りの参考にしてください。
1.心理的安全性とは
心理的安全性とは、組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態のことです。ここでは、心理的安全性の正しい定義や、よく誤解されがちな「ぬるま湯組織」との違いについて解説します。
まずは、心理的安全性という言葉の前提をしっかりと理解していきましょう。
|
項目 |
心理的安全性 |
ぬるま湯組織 |
|
目標への意識 |
高い(共通の目標に向かって努力する) |
低い(現状維持を優先する) |
|
意見の対立 |
建設的な議論として歓迎される |
対立を避け、表面的な同調を優先する |
|
失敗への対応 |
学びの機会として共有し、次に活かす |
失敗を隠す、または責任を曖昧にする |
|
人間関係 |
互いに尊重し合い、厳しい意見も言い合える |
仲の良さだけを重視し、波風を立てない |
1-1.心理的安全性の定義と提唱者
心理的安全性とは、チームのメンバーが発言することを恥じたり、拒絶されたりする不安がない状態を指す心理学用語です。
この概念は、1999年にハーバード大学で組織行動学を研究しているエイミー・エドモンドソン教授によって提唱されました。エドモンドソン教授は心理的安全性について、「チームは対人リスクをとるのに安全な場所であるとの信念がメンバー間で共有された状態」と定義しています。
平たく言うと、自分の意見が的外れかもしれないと感じても、組織の中で臆することなく発信できる環境だと言えます。チーム内で自分の意見が頭ごなしに否定されないという安心感があるため、メンバーはのびのびと業務に取り組むことができます。このような環境が整うことで、個人が持っている本来の能力を最大限に発揮できるようになります。
1-2.ぬるま湯組織(仲良しクラブ)との違い
心理的安全性が高い組織と、単なる「ぬるま湯組織(仲良しクラブ)」は明確に異なります。
心理的安全性の高いチームは、お互いの人格を尊重しているからこそ、目標達成のために厳しい意見や率直なフィードバックを交わすことができます。
一方でぬるま湯組織は、波風を立てないことや表面的な仲の良さを優先してしまいます。その結果、新しい挑戦や業務改善に向けた指摘ができなくなり、組織としての成長が止まってしまう懸念があります。
心理的安全性は「優しくて甘い職場」を作ることではなく、意見の対立を恐れずに建設的な議論ができる「健全で強い職場」を作ることが目的です。この違いを正しく理解し、メンバーがプロフェッショナルとして意見をぶつけ合える環境を構築することが重要です。
1-3.Googleの調査による注目の背景
心理的安全性が多くの企業から注目を集めるようになったきっかけは、アメリカのGoogle社が発表した調査結果にあります。
同社は「プロジェクト・アリストテレス」と呼ばれる大規模な社内調査を実施し、生産性の高いチームの条件を分析しました。その結果、チームの成功において「誰がチームのメンバーであるか」よりも、「チームがどのように協力しているか」が重要であることが判明しています。そして、高い生産性を生み出すための5つの重要な要素のうち、心理的安全性がすべての土台となる重要な要素であると結論づけました。
この画期的な発表により、心理的安全性という言葉が一気に世界中のビジネスシーンで認知されるようになりました。現在では日本国内の企業でも、組織力を高めるための重要なキーワードとして広く取り入れられています。
参考:Google re:Work - ガイド: 「効果的なチームとは何か」を知る
2.心理的安全性が低い職場で生じる「4つの不安」
心理的安全性が低い職場では、従業員が常に対人関係のリスクを感じながら働くことになります。エドモンドソン教授は、心理的安全性を損なう要因として「4つの不安」が存在すると指摘しました。
それぞれの不安がどのような状況で発生するのかを詳しく見ていきましょう。
|
不安の種類 |
具体的な心理状態 |
組織への悪影響 |
|
無知だと思われる不安 |
「こんな簡単なことも知らないのか」と思われたくない |
質問ができず、業務の進行が遅れる |
|
無能だと思われる不安 |
「仕事ができない人間だ」と評価されたくない |
ミスを報告できず、トラブルが深刻化する |
|
邪魔だと思われる不安 |
「忙しいのに時間を奪って申し訳ない」と感じる |
相談ができず、一人で抱え込んでしまう |
|
ネガティブだと思われる不安 |
「いつも否定的な意見ばかり言う」と批判されたくない |
改善提案ができず、現状維持に留まる |
2-1.「無知だ」と思われる不安
「無知だと思われる不安」とは、業務上でわからないことがあっても、周囲に質問できなくなる心理状態です。
心理的安全性が低い職場では、質問をした際に「そんなことも知らないのか」と呆れられることを恐れてしまいます。その結果、不明点を抱えたまま推測で業務を進めてしまい、後から大きな手戻りが発生するリスクが高まります。
本来であればすぐに解決できる小さな疑問が、誰にも聞けないことで大きな業務の遅延を引き起こしてしまいます。誰もが最初は知らないことがあるという前提をチーム内で共有し、質問を歓迎する雰囲気を作ることが大切です。
2-2.「無能だ」と思われる不安
「無能だと思われる不安」は、自分が仕事ができない人間だと評価されることを極端に恐れる心理です。
この不安が強いと、自分のミスや失敗を正直に報告することができず、周囲に隠そうとしてしまいます。失敗を隠蔽した結果、問題が水面下でどんどん大きくなり、発覚したときには取り返しのつかない大トラブルに発展する危険性があります。
本来であれば、ミスは早期に共有してチーム全体で対策を打つべき事象です。失敗を個人の責任として厳しく追及するのではなく、システムや仕組みの改善点として捉える風土が求められます。
2-3.「邪魔だ」と思われる不安
「邪魔だと思われる不安」は、上司や同僚の時間を奪ってしまうことに過剰な遠慮をしてしまう状態です。
「忙しそうにしているから今は話しかけないほうがいいだろう」と勝手に判断し、必要な相談や報告を後回しにしてしまいます。コミュニケーションの機会が減ることで、チーム内の情報共有が不足し、連携がうまく取れなくなってしまいます。
また、悩みを一人で抱え込むことで精神的なストレスが蓄積し、メンタル不調に陥る従業員が出る可能性も否定できません。いつでも気軽に声をかけられるオープンな環境や、相談のための時間を意図的に設ける工夫が必要です。
2-4.「ネガティブだ」と思われる不安
「ネガティブだと思われる不安」とは、批判的な意見を言うことで、チームの和を乱す人物だと思われることを恐れる心理です。
現状のやり方に問題を感じていても、「文句ばかり言う人だ」と評価されることを避けるため、沈黙を選んでしまいます。この状態が続くと、組織の課題が見過ごされ、新しいアイデアや改善の提案がまったく出てこなくなります。表面上は平穏に見えても、実態としては誰もが不満を押し殺している不健康な組織と言えるでしょう。
異なる意見や懸念点の指摘を「チームを良くするための建設的な意見」として前向きに評価する姿勢が重要です。
3.心理的安全性を高めるメリット
組織の心理的安全性を高めることは、従業員個人の働きやすさを向上させるだけでなく、企業全体の業績にも大きな影響を与えます。ここでは、心理的安全性を確保することで得られる代表的な3つのメリットについて解説します。
|
メリット |
期待される具体的な効果 |
組織にもたらす価値 |
|
生産性の向上 |
情報共有のスピードが上がり、業務効率が改善される |
業績の向上と目標達成の迅速化 |
|
離職率の低下 |
従業員が安心して働けるため、エンゲージメントが高まる |
優秀な人材の流出防止と採用コストの削減 |
|
イノベーションの創出 |
多様なアイデアが活発に提案され、新しい価値が生まれる |
変化の激しい市場環境での競争力強化 |
3-1.チームの生産性とパフォーマンス向上
心理的安全性が高まると、チーム全体の生産性とパフォーマンスが大きく向上します。
従業員が失敗を恐れずに意見を発信できるようになるため、必要な情報がスムーズに共有され、意思決定のスピードが格段に速くなります。また、トラブルやミスが発生した際にも早期に報告が上がるため、被害が拡大する前に迅速な対応をとることができます。
一人ひとりが自分の仕事に集中できる環境が整うことで、無駄なストレスや気遣いにエネルギーを割く必要がなくなります。結果として、個人の能力が最大限に引き出され、チームとしての高い成果へと繋がっていくと考えられます。
3-2.従業員の離職率低下と定着率向上
従業員の離職率が低下し、定着率が向上することも大きなメリットの一つです。
自分の意見や存在が組織に受け入れられていると感じることで、会社に対する愛着やエンゲージメントが自然と高まります。
人間関係の悩みやコミュニケーションのストレスは、退職理由の上位に挙げられることが多い要因です。心理的に安全な職場であれば、そうしたストレスが大幅に軽減され、「このチームで長く働き続けたい」という前向きな感情が芽生えます。
優秀な人材の流出を防ぐことは、企業の長期的な成長において非常に価値のある成果だと言えるでしょう。
3-3.イノベーションや新しいアイデアの創出
変化の激しい現代のビジネス環境では、イノベーションや新しいアイデアの創出が重要視されています。
心理的安全性が確保された組織では、多様な価値観や突飛なアイデアであっても、頭ごなしに否定されることがありません。そのため、これまでの常識にとらわれない斬新な意見が次々と提案される土壌が育ちます。
さまざまな視点から活発に議論が交わされることで、既存の事業を改善するだけでなく、まったく新しいサービスや製品が生まれるきっかけとなります。新しい挑戦を称賛し合う文化は、企業の競争力を底上げする強力な武器になります。
4.組織の心理的安全性を測定する方法
自社の心理的安全性が現在どのような状態にあるのかを把握することは、改善に向けた第一歩となります。感覚的な判断に頼るのではなく、具体的な指標を用いて組織の状態を測定する方法を紹介します。
|
測定方法 |
実施の目的 |
具体的な手段 |
|
エドモンドソン教授の7つの質問 |
チームの心理的安全性を定量的にスコア化する |
全メンバーを対象とした無記名アンケート |
|
定期的なアンケート(パルスサーベイ) |
組織のコンディション変化をリアルタイムで把握する |
高頻度で行う短い質問のアンケート |
|
1on1ミーティング |
個人の本音や細かな感情の変化を定性的に汲み取る |
上司と部下の定期的な個別対話 |
4-1.エドモンドソン教授が提唱する7つの質問
組織の心理的安全性を客観的に測る手法として、エドモンドソン教授が提唱した「7つの質問」が広く用いられています。この質問は、チームメンバーが日常的に感じている不安や安心感を数値化するための指標となります。
具体的な質問項目には、「チーム内でミスをすると不利益を被ることがあるか」や「他のメンバーに助けを求めることができるか」といった内容が含まれます。メンバー全員にこれらの質問に対して5段階評価などで回答してもらうことで、チームの現状を可視化できます。
回答は原則として無記名とするなど、率直な意見を引き出せる環境を整えた上で実施することが正確な測定のポイントです。
4-2.定期的なアンケートと1on1ミーティングの活用
心理的安全性は一度測定して終わりではなく、定期的に状態をモニタリングしていくことが求められます。
月に一度程度の短いアンケート(パルスサーベイ)を実施することで、組織の雰囲気の変化を素早く察知できます。
また、こうした定量的なデータだけでなく、1on1ミーティングを通じた定性的な情報収集も並行して行うとより効果的です。1on1ミーティングでは、業務の進捗確認だけでなく、メンバーが感じている些細な不安や悩みに耳を傾ける時間を設けます。
定量と定性の両面から現状を把握し、チームの課題に対して柔軟に改善策を講じていきましょう。
【関連記事】エンゲージメントサーベイで本音を引き出す質問項目とは?設計のポイントを紹介
5.心理的安全性を高めるためにリーダーができる行動
心理的安全性の高いチームを作るためには、現場をまとめるリーダーの振る舞いが非常に重要な役割を果たします。メンバーが安心して発言できる環境を醸成するために、リーダーが明日からすぐに実践できる具体的な行動を解説します。
|
リーダーの行動 |
行動の目的 |
具体的なアクション例 |
|
意見を否定せずに傾聴する |
発言することへの安心感を与える |
部下の話に最後まで耳を傾け、まずは感謝を伝える |
|
弱みや失敗を自己開示する |
ミスを隠さないオープンな風土を作る |
リーダー自身の過去の失敗談や現在の悩みを共有する |
|
目標を明確にして役割を共有する |
チームの方向性を合わせ、貢献実感を持たせる |
組織のビジョンを語り、各個人の仕事の意義を説明する |
5ー1.メンバーの意見を否定せずに傾聴する
リーダーがまず取り組むべき行動は、メンバーから上がってきた意見や報告を否定せずに「傾聴」することです。部下が勇気を出して発言した際、途中で話を遮ったり、頭ごなしに反論したりすると、次からの発言を躊躇させてしまいます。
まずは「意見を言ってくれてありがとう」と感謝の意を示し、相手の考えを最後までしっかりと受け止める姿勢を見せましょう。その意見が採用できるかどうかは別として、発言したこと自体を肯定的に評価することが大切です。
自分の意見が尊重されていると感じることで、メンバーは対人関係のリスクを恐れずにアイデアを出せるようになります。
5ー2.リーダー自身の弱みや失敗を自己開示する
リーダー自身が積極的に「自己開示」を行い、自分の弱みや失敗談をチームに共有することも非常に有効な手段です。完璧なリーダーを演じようとすると、メンバーも「自分も失敗してはいけない」とプレッシャーを感じて萎縮してしまいます。
「実はこの業務で少し悩んでいる」「過去にこんな大きなミスをしてしまった」と率直に話すことで、心理的なハードルが大きく下がります。リーダーが自ら弱みを見せることで、「このチームでは失敗を隠さなくても大丈夫だ」という安心感がメンバーの間に広がります。
人間らしい一面を見せることは、チーム内の信頼関係を深めるための強力なアプローチとなります。
5ー3.共通の目標を明確にして役割を共有する
チームが目指すべき共通の目標を明確にし、メンバー一人ひとりの役割をしっかりと共有することもリーダーの重要な責務です。自分がチームにどのように貢献しているのかが見えないと、仕事に対する意義を見失い、発言するモチベーションが低下してしまいます。
リーダーは定期的に組織のビジョンを語り、「あなたのこの業務が、チームのこの目標達成に直結している」と具体的に伝えるよう心がけましょう。各自が自分の役割に誇りを持てるようになれば、自発的な行動や建設的な意見の提案が自然と増えていきます。
目標という共通言語を持つことで、チーム全体が同じ方向を向いて協力し合える強固な組織基盤が完成します。
【関連記事】社内コミュニケーションを活性化する!具体的な施策やメリットを解説
6.心理的安全性を高めた企業の取り組み事例
実際に心理的安全性の向上に取り組み、組織の課題を解決した企業の事例を紹介します。
他社がどのような施策を行い、どのような成果を上げたのかを知ることで、自社に適用できるヒントが見つかるはずです。
6ー1.株式会社メルカリの事例
株式会社メルカリでは、従業員同士でリアルタイムに感謝や賞賛を伝え合い、インセンティブを贈りあえる「mertip」を導入しています。
拠点を超えて気軽に称え合える組織を目指し、社内ツールから手軽に送り合える仕組みを構築しました。導入後の社内調査では約87%の満足度を獲得したそうです。「感謝の可視化で他部署との調整ハードルが下がる」「仕事を見てくれていると感じやすくなった」といった声があがり、相互理解に繋がっています。
参考:贈りあえるピアボーナス(成果給)制度『mertip(メルチップ)』を導入しました。 | mercan (メルカン)
まとめ
この記事の要点をまとめます。
|
心理的安全性の向上は一朝一夕で成し遂げられるものではありませんが、リーダーの小さな行動の変化が組織を変える大きな一歩となります。
<最後に>
今後健康経営優良法人認定の取得を進めるのであれば、認定取得を強力にサポートする【ALWEL(オルウェル)】というサービスをリリースしております。 ご興味ありましたら是非ご確認ください。
